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なないろやさい
加波山市場|あだち農園|安達太平

地元の耕作放棄地をどうにかしたい!  「あだち農園」さんのレポート

生鮮

2021年5月下旬、『あだち農園』の野菜を育てている安達太平さんと奥様の幸子さんにお話をうかがいました。退職前はお二人共、小学校と中学校の教員でした。4人の子どもを育て、現在は長男家族と一緒に暮らしています。取材当日、畑を見学させていただいた時には2人の元気なお孫さんが畑を隅々まで案内してくれました。

以下、太平さん:太/幸子さん:幸

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「退職後に本格的な野菜づくりをはじめたきっかけはなんですか?」

太「きっかけのひとつは自宅周辺の耕作放棄地が増えはじめたことです。『誰かが動きはじめなければ!』と、危機感を感じ、まずは自宅前の土地で本格的な野菜づくりをはじめることにしました。働いていた頃は忙しく、観賞用の花々を育て、小さな家庭菜園で野菜を育てるだけでしたが、実は幼少期に両親の野菜づくりを手伝っていたため、農作業はとても身近なものでした。」

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写真左下:ズッキーニ


「教員生活から一転、本格的な野菜づくり開始により生活習慣は変わりましたか?」

太「夜明けと共に目覚め、日暮れと共に眠る。最近は午前2時前には目覚めてしまいます。午前5時頃には畑の見回りを開始。まさに晴耕雨読の生活です。私は何も考えなくても野菜が『これをやって!』と訴えかけてくるのでやらざるを得ません。毎日やらなけれなばならないことが尽きません。野菜の生活リズムに合わせています。最近は加波山市場の出荷時間に合わせた生活リズムになってきました。加波山市場へ出荷したらその日の仕事は終わりです(笑)」

幸「変わったことといえば、主人は退職後まず最初にトラクターを購入したんですよ(笑)」

「退職後まず最初にトラクターを購入!?詳しくお聞かせください!」

太「まずは徹底的に土壌づくりを行う必要がありました。新しいことをはじめるためには基本が大切だからです。退職後4年間は訓練の日々、野菜づくりと真剣に向き合い続けました。」

「野菜づくりにおいて一番重要なことはなんですか?」

太「年間計画をしっかり立てることです。最初は家族が食べるための野菜を育て、自給自足できるようになることが目標でしたが、今では年間40〜50種類の野菜を育てています。米と異なり野菜は連作障害(*)を起こしやすいので、畑を区分けし、季節ごとに種類を変えていく必要があります。野菜の成長スピードは天候や気温の影響を受けるため、完全に予測することは不可能です。『どこに、なにを、いつ』植えるのか、計画を立てる段階から野菜づくりははじまっているのです。」

(*連作障害:毎年同じ場所に同じ作物を栽培することを連作といいます。連作すると、野菜を侵す土の中に潜む病菌や有害センチュウの密度が高くなったり、土中の栄養分が不足したりして野菜の育ちが悪くなります。この現象を連作障害と言います。)

「あだち農園では珍しい野菜をよく見かけます。栽培する野菜を選ぶ基準はありますか?」

太「『①栄養価の高い健康にいいもの②子供が食べたくなる野菜③カラフルで調理したときも楽しい野菜④珍しい品種』この4点を意識しています。”珍しい”というのは”スーパーで見かけるかどうか”を一つの基準にしています。見た目の美しさや珍しさを意識している理由は、見た目や名前が面白い野菜は、普段の生活ではあまり野菜に興味がない人たちも、珍しい野菜には関心を示しやすいからです。『これなんだろう?』そんな疑問をきっかけに野菜や農業に関わる人が増えてほしいと思います。育てる上では安心・安全を念頭に置いていますが、実はこの『安心・安全』の基準を満たすことがいちばん難しいです。無農薬にこだわって何度も挑戦してきましたが、虫がつくことを避けられず、現在は減農薬を心がけています。出荷する前の最終チェックは『野菜嫌いの孫が食べるかどうか』を判断材料のひとつにすることです!」

幸「他にもお客さんが実際に買って帰るとき、持ち帰りやすいように、大きくなりすぎない品種を選ぶこともあるんですよ。」

太「重いと買いたくないという意見もあるみたいだからね。成長の途中であえて収穫してしまうなどの工夫が必要なこともあります。」

「『カラフルで調理したときも楽しい野菜』という目線は新しい気がします。素敵ですね。」

幸「料理本を読むのが趣味なのに自分では作らないんですよ(笑)」

太「スーパーに並ぶ野菜は流通を簡略化し、コストをより削減するために、箱詰めできるサイズが重要視されています。サイズも形も規格外の野菜は売り物として扱うことすらできません。ですが、私は収穫したときの美しさばかりではなく、実際に料理にしたときに食卓を彩ってくれることも大切だと考えています。」

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「ご家族が一丸となって協力しあってくださっている印象があります。奥様の生活はどのように変わりましたか?」

幸「働いていた頃は帰宅時間も遅く、『野菜は買うもの!土はついていないもの!』が当たり前でした。」

太「ある日、彼女が友人とレストランに行った帰り道、『珍しいお野菜食べたのよ!生のまま食べられるカボチャ!』と嬉しそうに教えてくれたことがありました。”コリンキー”という品種のカボチャなのですが、当時うちの庭でも育てていた野菜です(笑)」

幸「最初は珍しい野菜に戸惑い、調理の仕方もまったくわかりませんでした。今では、『もっと野菜への興味や関心を人々に持ってもらうにはどうすればいいのだろう?』と考えるようになりました。昔は、恵まれた環境が当たり前すぎて、ここには何もないと思ってしまっていたんですよね。子育てや仕事が落ち着き、周りを冷静に見渡せる余裕ができて、初めて目の前にあるものの価値に気付きはじめたんです。桜川市の魅力を再発見することができました。」

「自然と意識が変わっていったのですね。加波山市場へ出荷をすることになった経緯をお聞きしてもいいですか?」

太「最初に話した通り、耕作放棄地を増やさないために家庭菜園感覚ではじめた野菜づくり。はじめは親戚や知人にシェアしていたのですが、土地が広かったため次第に食べきれなくなり、野菜を捨てなければならないほど収穫できるようになりました。健康管理における食の重要さを身をもって体感していたため、『新鮮でおいしい野菜をもっとたくさんの人に食べてもらいたい』と考えはじめるのは自然な流れでした。イベントに参加してみたり、直売所やマルシェへ出品してみたり、試行錯誤してみましたが、それらはどれも一時的なものばかりでした。」

幸「自宅の前にテントを立てて青空市場をひらいてみたこともありました。ご近所の方々やお嫁さんのママ友が遊びに来てくれましたが、持続的に一定の量をさばくことはできず断念しました。」

「加波山市場に出荷するようになって野菜のロスは減りましたか?また、何か変わったことはありますか?」

太「減っていますね。やはり毎日野菜を提供できる場ができたことは感謝しています。お客さんと直接話せる機会は少ないけれど、単純に野菜を畑に転がしたまま腐らせざるを得なかった頃に比べれば、やりがいが増えました。毎日、継続的に計画通り野菜を育て、商品としての品質を維持することはやっぱり難しいです。続けることの大変さを実感する一方で、『野菜づくりが難しいからこそ飽きずにいられる』とも思っています。」

幸「そもそも、主人は食べるのが好きというよりも、育てるのが好きなんですよ。」

太「育てるのが楽しいからこそ作り続けられるんだと思っています。野菜は待ってくれませんしね。直売所という多くの人間が関わる場を利用する以上、自分の利益ばかりを追求するのではなく他者とのバランスも考えていきたいと考えています。」

「あだち農園がめざす未来についてお聞かせください。」

太「簡単な施設でも持続できる野菜づくりを目指しています。何度も繰り返しになってしまいますが、農業に関心のある人々を増やしていきたいと思っています。やはり桜川市も後継者問題が深刻で、そして引き継ぐ人間の不在により耕作放棄地が増えていきます。だからこそ、特に若い方々には積極的に挑戦してもらいたいです。『まずは家庭菜園をはじめてみませんか?』そんな問いを投げかけたとき、参考や手本になれるような農園でありたいです。ヒントを共有して、お互いに協力し合えるような関係になれたらと思います。その日に備えて、私自身も勉強の日々です。最近はYouTubeで情報収集をしています。お気に入りは『塚原農園』チャンネルです。みなさんもぜひ!」

幸「それから小さな子どもたちが何も考えずに靴のまま入れる農園づくりをしています。子供の頃から畑に入り、自らの手で作物を育てることの楽しさや難しさを知れば、もっと自分が生まれ育つ町に誇りを持てるのではないでしょうか。この土地に暮らす人々が、町を好きになるきっかけづくりになれば嬉しいですね。特に若い方々が町から離れていくのは残念に思います。いくら外部の人間を定住させようとしても地元の人間が誇りを持っていなければ意味がない。そう思いませんか?」

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元教員夫婦が考える野菜づくりと暮らしの在り方
ご夫妻の言葉には重みと説得力がありました。ご家族のことだけではなく、加波山市場のこと、桜川市の未来をも見据えた貴重なお話を聞かせていただくことができました。勉強熱心な太平さんと、自らの経験から地域への想いや暮らしのあり方について考えはじめた奥様、そしてご夫妻の家族が全員一丸となって協力し合いながら育てている野菜たち。野菜も人間も大切なのは見た目ではなく中身であるという、当たり前に気付かさせてくれる素晴らしい機会となりました。協力していただいた安達家のみなさま、ありがとうございました。


【加波山市場に並ぶ「あだち農園」の野菜を一部紹介】
にんじん:ベータリッチ(5月〜)/じゃがいも:デストロイヤー(5月〜)/ブロッコリー:グランドーム(5〜7月)・サマードーム(6〜8月)・ウィンタードーム(11〜12月)/ズッキーニ各種(6〜7月)/とうもろこし:ゴールドラッシュ(6〜7月)/カボチャ:コリンキー(6〜8月)/四葉きゅうり(6〜8月)/ピーマン:ビッグピーマン(6〜10月)・とんがりパワー(6〜10月)/ミニパプリカ(6〜10月)/絹皮茄子(6〜10月)/マクワウリ(7〜8月)/ミニトマト:チョコアイコ(7〜10月)/あじまるみ大根(10〜1月)etc

※出荷時期はあくまでも目安なのでずれることがありますがご了承ください。


「最後に!安達家ならではの特別な野菜の食べ方はありますか?」

太「最近のブームはやはりとうもろこしでしょうか。とうもろこしは太陽の光が当たると糖分がデンプンに変わってしまうため、毎朝、日の出前に収穫しています。今、加波山市場に並んでいる”ゴールドラッシュ”もすべて日の出前に収穫したものです。安達家の食卓では、朝食に茹でたてのとうもろこしがでます。ポイントは収穫してすぐに茹でること!」

幸「とうもろこしの湯で時間は沸騰してから2分30秒!これは主人の譲れないこだわりです!」

太「それから、野菜によって特徴の異なる”菜の花”を食べられるのは農家だからこその特権かもしれません。菜の花はアブラナ科の花の総称です。小松菜や白菜、チンゲンサイなどのアブラナ科の野菜は若い葉を食べますが、収穫せずにそのまま育てると、菜の花として食べられます。独特のほろ苦さが特徴ですが、豚肉やベーコン、ごまなど、油脂分があって香りの強いものとの相性は抜群ですよ。成長しすぎると固く苦くなってしまうので、おいしく食べられる期間は短いです。収穫のタイミングが重要です。」

幸「私は、アスパラ菜(*)がいちばんのお気に入りです。初めて食べたときにとにかく感動したのを覚えています。11月頃に加波山市場へ出荷予定なのでお楽しみに!」

(*アスパラ菜は中国野菜の花芽を食べる野菜。アスパラ菜は見た目が菜の花に似ていますが、菜の花のような苦味は無く、花芽が付いた若い茎を食べます。クセも無くほんのりと甘みがあり、味、食感ともアスパラに似ています。)

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